第22章 帽子屋ルート(分岐)
「私がいつ、貴女を嫌いだなんて言いました?」
熱を帯びた瞳とは真逆の、底冷えするほど冷たい声音。
手首は未だドアに縫い止められ、私は身動きを取れなかった。
「そ、それは……だって、先輩が……」
混乱していて上手く言葉が出てきてくれない。
それが彼の怒りを増長させるのでは、と子ども染みたことを考えてしまった。
「私が貴女を嫌うはずがないでしょう!?」
「ぃた……っ」
ギリ…と音がしそうなほど強く握られ、私は思わず声を上げる。
いつもの紳士な態度とは違う遥都先輩に、私の頭はついていけていなかった。
手首の痛みを堪えながら、私はどうにか彼を見る。
「私は『来ない』ように言いました。それは、『貴女のため』だとも言ったはずです。それなのに……っ」
いつもとは違う余裕のない彼の姿に、私の心臓は早鐘を打つ。
「まだ、間に合ったんです。あのときは……あのときまでは、私は貴女を手放すことに耐えられた……」
「手放すって……?」
何を言っているのか分からなかった。
疑問を投げかけた私に、遥都先輩はハッと我に返る。
視線をさ迷わせ、彼の拘束が緩んだ。
だが、私を解放する気はないようだ。
「私がなぜ紙コップや安価のポットを使っているか、前に貴女に聞かれましたが、覚えていますか?」
私は首を横に振って答える。
聞いた記憶はあるが、遥都先輩が何と答えたか忘れてしまっていた。
「『簡単に捨てられ、代えが利くから』と答えました。それに芸がなく、情も移りにくい」
「情?」
どういう意味?
その意図を察して、遥都先輩は淡々と続ける。
「そう、芸がないことは、私にとってはとても重要なことです。いくら安価でも、模様や機能を気に入って購入すれば、それだけ愛着が湧いてしまいますから」
「何かを買うって、そういうことでしょ? 必要だから買うこともあるけど、柄や機能で物を選ぶのは普通のことじゃない?」
少なくとも、私はそうして物を選ぶ。
私の言葉に、遥都先輩は少し悲しそうな顔をした。