第21章 白ウサギの正義(白ウサギEND 帽子屋ver.)
「アリスちゃん、言われたんだよね? 『来ないで』って」
「え、えぇ……」
「それはね、ある意味、的幡先輩の警告だったんだよ。次に会ってしまったら、アリスちゃんを手放せなくなってしまうから。でも、アリスちゃんは……」
来て、しまった。そして、会ってしまった。
「だから、全てが始まり、全てが終わったの」
「そう。私の頭と心を占めているのは、アリス……貴女を失うことへの恐怖。昼間の、あの瞬間までなら耐えられました。あのまま二度と会わなければ、私は貴女を諦められた。それなのに……」
愛の告白。
そう聞こえなくもない。
今までの話を聞いていなければ、私はこの言葉を嬉しいと感じられただろう。
けれど、実際はそうじゃない。
私は、このセリフの裏に隠された狂気を知ってしまった。
小刻みに震える身体を、私は必死で宥めようと抱きしめた。
そんな私を、シロが優しく支えてくれた。
「アリスちゃん、大丈夫。言ったでしょ? 始まってしまった……でも、もう終わってるんだよ。あたしにとって大切なのはアリスちゃんだけ。アリスちゃんを守るためなら、あたしはどんなことでもやれるよ」
そう言ってシロは、震える私から離れ、遥都先輩へ駆けた。
そして――……。
「う……っ」
体当たりした、と最初は思った。
そうじゃないと分かったのは、遥都先輩から身を引いたシロの手に、血が付着した大きなハサミが握られていたからだった。
「遥都先輩!」
「ダメだよ、アリスちゃんッ! 近づいちゃ……っ」
「離して!!」
血に濡れた手で私を引き留めるシロを振りほどき、私は遥都先輩に駆け寄った。
遥都先輩の吐き出した血液が、屋上のコンクリートを汚していく。
抱き起こすと、遥都先輩は安心したように微笑んだ。