第21章 白ウサギの正義(白ウサギEND 帽子屋ver.)
「シロはどうして遥都先輩が私に、屋上へ来ないように言ったか分かるの?」
「分かるよ。だって、的幡先輩とあたしは同じようで真逆、そして、真逆なようで同じだから」
言っている意味がさっぱり分からなかった。
同じならば同じ。
真逆ならば違う。
それは決して、言葉の中で同居しない。
だが、的幡先輩はシロの言葉を否定しなかった。
「アリスちゃんだって、変だと思ったでしょ? こんなに立ち居振る舞いのキレイな人が、紙コップや安物のポットで紅茶を飲むなんて」
「それは……」
変だと思ったのは確かだ。
初めて遥都先輩と紅茶を飲んだとき、私は聞いた。
そのとき、彼は何と言ったっけ?
「使い捨ての紙コップは『捨てる』ことが前提で作られている。安価なポットは、壊れても代えが利きますから」
遥都先輩がようやく口を開いた。
「あの黒服のボディーガードさんが毎日違うのもそう……情が移らないようにするため」
「情?」
意味が分からなかった。
私がバカなのだろうか?
物を大切にするのは悪いことではない。
誰かを大切に思うことも。
それをわざわざ、『情が移らないようにするため』という理由で、気に入った物を使わず、人を遠ざける心理が理解できなかった。
「彼らは有能なボディーガードです。傍に置いておけば心強いですし、私の癖や思考を理解してもらえば、その分私も過ごしやすくなる。ですが、それでは駄目なのです。私は……」
また、遥都先輩は沈黙してしまう。
シロは遥都先輩を一度見る。
その瞳は、まるで敵を睨むような憎悪が宿っていた。
「この人はね、アリスちゃん……臆病な人なの。大切な物を失うことが怖くて、大切な人を亡くすことや大切な人が離れていくことが怖い……とても、臆病な人」
「大切な……」
思い出す。
昼間、彼は私に言った。
大切なものがあるか、と。彼は私に聞いた。
「ある」と答えた私に、彼はもう一度聞いたのだ。
それが損なわれてしまったら、どう感じるか。