第21章 白ウサギの正義(白ウサギEND 帽子屋ver.)
持ったままにしていた屋上の鍵を使って、ドアの鍵を開ける。
風が強く吹き、私の髪を揺らした。
「……誰もいない」
この時間なら、まだ屋上で紅茶を飲んでいるはずなのに。
彼のいない屋上を見て寂しさを感じている自分に私は驚いた。
遥都先輩と屋上で過ごした時間が脳裏を過る。
その一つ一つを思い出していくうちに、熱いものが込み上げてきた。
本当に、もう会えないの?
目頭が熱くなる。それを私はグッと堪えた。
「アリスちゃん、もう帰ろ?」
私たちは踵を返して階段を振り返る。
すると、そこには遥都先輩がいた。
「遥都先輩……?」
遥都先輩の顔を見て、安心している自分がいることに気づいた。
「アリス……もう、ここには来ないように言ったはずです」
「それは先輩が決めることじゃないでしょ」
屋上は彼の所有物ではないのだ。決める権利はない。
「私のことが、嫌いになったの? だったら、そう言えばいいじゃない!!」
もしそうなら、遠回しに言わず、はっきり言って欲しかった。
曖昧に濁されて、そのことに気づかず、どんどん嫌われるよりは。
「アリスちゃん、違うよ。むしろその逆……。アリスちゃんがここに来た時点で、もう、全てが始まって、全てが終わったの。そうでしょう? 的幡先輩」
抽象的な表現に、私の頭の中には疑問符しか浮かばなかった。
「君は、『白ウサギ』ですね。貴女の言う通りです。続きは屋上で話しましょう」
私たちは遥都先輩に促されて、屋上へ戻った。
「貴方はここで」
遥都先輩は黒服の男に小声で何かを伝えると、屋上に入らないよう命じた。
黒服は何を言うこともなく、黙って校舎内に残る。
バタンッと重たい音を立ててドアが閉じられた。