第20章 白ウサギの狂気(白ウサギEND 眠りネズミver.)
「祢津、祢津! しっかりして!!」
救急車を呼ばなければ。
混乱する頭をどうにか働かせてスマートフォンを操作するが、指が震えて番号を入力できない。
「アリスちゃん。そんなヤツ放っておいて、こっちにおいで?」
人を刺したとは思えないにこやかな笑みで、シロは血に濡れた手を差し出した。
「シロ……どうして、こんなこと……」
「だって、アリスちゃんを泣かせたのは祢津くんでしょ? だったら、これは当然のことだよ」
当然?
人を刺しておいて、何が「当然」なのか。
「アリスちゃん、どうしたの? 何でそんな顔するの? アリスちゃんのためだよ。あたしはいつだって、アリスちゃんのことを考えて……」
「そんなの知らない! 祢津を返して!!」
すでに呼吸が止まってしまった祢津を腕に抱え、私は叫んだ。
「……アリスちゃん……」
悲しそうな声でシロは私を呼ぶが、私はそれに応えなかった。
やがてシロは、手に持ったカッターナイフを握り直す。
「アリスちゃんはあたしより、祢津くんの方が大事なの? あたしより、アリスちゃんの名前も呼ばない、そんな男を選ぶの?」
そんな話をしているんじゃない。
そう言いたかったが、シロの纏う雰囲気に、私の唇は動かなかった。
「もう、いいよ……もっと早くこうしていれば良かった。あたしを愛してくれないアリスちゃんでも、一緒にいてくれるならそれで良かったのに……」
やがてシロは睨みつけるように私を見た。
「アリスちゃん、死んで? そして、来世で幸せになろう?」
答える間もなく、血に濡れたカッターナイフが迫る。
動けない私の身体に、薄いカッターナイフが突き刺さった。
一瞬の痛みの後に、身体中が熱くなる。
それなのに、どこか酷く寒くて、指先まで冷たく凍え死んでしまいそうだった。
「大丈夫だよ、アリスちゃん。あたしもすぐに逝くから……」
【白ウサギの狂気/白ウサギEND 眠りネズミver.】