第20章 白ウサギの狂気(白ウサギEND 眠りネズミver.)
悲しい。胸が苦しい。
自分のことなのに、自分が分からない。
立ち止まって、私はようやく自分が泣いていることに気づいた。
「アリスちゃん?」
「……シロ……」
委員会が終わったらしいシロが、私に声を掛けてきた。
私の様子を見て、驚きに目を丸くしている。
「どうしたの? 何があったの?」
「わ、私は……」
その先は言葉にならなかった。
何を言えばいいのかさえ分からない。
まだ自分の中にある感情が何なのかもまだ分かっていなかった。
「アリサ!」
追いついた祢津の声に、私は身体を震わせる。
「祢津くん?」
「キミは確か、アリサといつも一緒にいる……」
ほとんど面識がないせいで、祢津はシロの名前が出てこないようだ。
「アリサ、オレ……」
私は祢津の言葉に耳を塞ぐ。
今は何も聞きたくなかった。
早くこの場から離れたい。
そんな私の様子に、シロが不意に私を抱きしめた。
「大丈夫だよ、アリスちゃん。あたしに任せて」
そう言って、シロはカバンの中から何かを取り出した。
祢津の方へ歩いて行くシロを、私はただ呆然と見送る。
「アリサ、オレの話を――……うっ……」
突如、祢津は呻き声を上げた。
目の前の出来事に私は頭が白くなる。
シロが引き抜いたモノがカッターナイフであることを理解し、彼女がそれで祢津を刺したことを同時に理解した。
「祢津!」
倒れる祢津に、私はもつれる足を動かして駆け寄った。