第18章 オレのアリス(眠りネズミ恋愛END)
下駄箱へ行くと、祢津が珍しく神妙な顔をして立っていた。
「祢津、どうしたの? そんな難しい顔して」
「あ……アリサ……」
アリスだから。
カチンッと来たが、黙って話を聞いてやることにする。
よく見ると、彼は何か持っているようだ。
私の視線に気づいたのか、祢津はそれを見せてきた。
「実はこれ……下駄箱に入ってて……」
「……っ」
彼が見せたのは一通の手紙だ。
そして、それがラブレターであると、すぐに直感した。
それを裏づけるように、封筒もそこから覗く便箋も薄い桃色をしていた。
私は思わず俯いて、何も言えなくなってしまう。
「こういうの初めてで……手紙には今日の放課後、中庭へ来て欲しいって書いてあるし。オレ、どうしたらいいのかな……?」
そんなことを聞かれても、答えられるわけがなかった。
女の子からの告白なんて……行って欲しくない。
黒く重たい鉛のようなものが、胸の奥深くへ沈んでいく。
「……アリサ……?」
私は反射的に彼を突き飛ばした。
「……っ、あ、アリ――……」
「私はアリサじゃない! そんな名前で呼ばないでッ!!」
よろめく祢津を置いて、私はその場から逃げ出した。
* * *
悲しい。胸が苦しい。
自分のことなのに、自分が分からない。
立ち止まって、私はようやく自分が泣いていることに気づいた。
「……こんなことって……」
アリサ。
強くてカワイイ、非現実に住む女の子。
そんな彼女の話をして笑う祢津の隣に、私じゃない誰かがいる。
それを想像すると、たまらなく不快になった。
私は手近な教室へ入る。