第17章 白ウサギの崩壊(白ウサギEND チェシャ猫ver.)
瞼を開けて最初に見えたのは、見慣れない天井だった。
ここはどこだろう?
そう思うより早く、シロの心配そうな顔が目に入った。
「アリスちゃん、気がついた?」
「……シロ……? ここは……」
「病院だよ。アリスちゃん、階段から落ちて……」
そうだった。
私は、鈴也から逃げていた男子生徒の一人とぶつかって……――。
病室を見渡す。
白を基調とした清潔な、どこか無機質に感じる部屋。
「シロ、鈴也たちは……――」
私の言葉を遮って、シロは私の身体を抱きしめた。
「アリスちゃん、心配したよ。このまま目覚めないんじゃないかって………」
「シロ……」
慣れたシロの匂いに、心がほっと落ち着く。
シロの悲愴な言葉を聞いて、私は小さく笑い、彼女の背中に手を伸ばした。
「……っ」
私は寸前で手を止める。
慣れたシロの匂いに異臭が混ざっている気がして、私はシロの身体を引きはがした。
「アリスちゃん?」
「シロ……鈴也たちは……?」
異臭の正体に思い当り、私は固い声音で尋ねる。
まさか、そんなはずはない。考え過ぎだ、と自分を安心させるように。
改めてシロを見据え、私は瞠目した。
カーディガンで隠しているが、そこから薄っすらと赤いモノが滲んでいる。
「いないよ。だってアリスちゃんにケガさせたんだもん」
にっこりと無邪気に笑うシロ。
いないよ――もう、いないよ……。
シロの言葉の意味を察して、私は震えが止まらなかった。
「ウソ……だよね……? そうでしょ? ねぇ……」
私はシロの身体を掴んで、感情のままに揺さぶった。
「ウソだって言ってよッ!!」
私の叫びが、病室に虚しく響く。
自分の言う「ウソ」が、鈴也たちが死んだかもしれないことなのか、シロが人を殺したかもしれないことなのか、その両方なのか。
それが自分でもよく分からなかった。