第15章 ぼくのアリス(チェシャ猫恋愛END)
「……っつ」
反動で頭や身体のあちこちに痛みが走った。
自分の頭に包帯が巻かれていることに気づき、私はようやくここが病院であることに気づく。
そういえば、階段から落ちたのだった。
「泣いてるの……?」
聞かない方が良かったかな。
言った後に少しだけ反省する。
彼は私の質問に答えることなく沈黙した。
それに合わせて、私もそれ以上は聞かないことにする。
鈴也の腕の中は温かく、やはり陽だまりと新緑の香りがした。
病室には私たちしかいなくて、そこには鈴也の静かな泣き声だけが響く。
「…………死んじゃったかと、思った…………」
どれほどそうしていただろうか。
やがて、ポツリポツリと、鈴也が小さく言葉を零し始めた。
「頭から、血がいっぱい出て……身体が冷たくなって……動かなくなって……」
震える声と一緒に、私を抱きしめる鈴也の腕も震えている。
「ぼくのせいで……ぼくのせいで、アリスが……ッ」
ギュッと腕に力が込められる。
それは少し苦しかったが、私はされるがまま何を言うことをせず、彼の背中に腕を回した。
「大丈夫、私は生きてるよ。死んでないから、大丈夫だから」
もう泣かないで。
いつもみたいに笑ってよ。
優しく鈴也の腕をほどき、彼の涙を拭う。
初めて鈴也の笑顔以外の表情を見た気がした。
「大丈夫」
もう一度繰り返し、私は微笑んで見せる。
すると、鈴也はもう一度私を抱きしめると、優しい動作で私の顔を上に向かせた。
彼の唇が私の唇に重なり、私は目を閉じた。
鈴也への愛しさが込み上げてくる。
身体の痛みも忘れて、私は彼を抱きしめた。
「……大好き……ぼくの、アリス……」
【ぼくのアリス/チェシャ猫 恋愛END】