第15章 ぼくのアリス(チェシャ猫恋愛END)
「アリスちゃん、また明日」
「うん、バイバイ」
悲しそうに手を振るシロを見送った。
さて、どうしようかな。
時間通りに職員室に行ってやるのも、何だか癪である。
どこかで時間を潰して、五分か十分くらい遅れて行こう。
そんなことを考えながら、私は階段を下りようとした。
そこへ、階下からバタバタと足音が聞こえる。
その合い間で「キャッ」、「うわぁっ」と声が上がっていた。
「待て待て待て~ぃ!」
聞き慣れた声が耳に届く。
どうやら鈴也がまたやらかしているようだ。
彼と同級生らしい男子生徒が、全速力で逃げ回っている。
「こっちに来るなぁ――ッ!」
「ギャ――――ッ!」
「捕まってたまるかぁ――ッ!」
なぜ逃げているのかは分からないが、どうせ下らない理由だろう。
そんなことを考えながら、私は階段を下り始めた。
すると、先ほどの鈴也たちの声がこちらへ近づいてくる。
男子生徒が逃げ惑いながら大急ぎで階段を駆け上がってきた。
男子生徒たちのこの様子では、私のことは目に入っていないだろう。
おそらく、それが原因だったのだと思う。
――ドンッ
男子生徒の一人と、すれ違いざまに肩がぶつかった。
勢いよくぶつかったせいで、私の身体はバランスを失う。
ずるりと、階段から足が滑った。
「あっ……」
落ちる、と思ったときにはもう遅い。
まだ数段も下りておらず、高い位置からの落下なのに、どこかゆっくりと感じられた。
「アリスッ!」
鈴也の声が遠くに聞こえる。
視界が、暗転した。
* * *
瞼を開けると、そこは見慣れない天井だった。
「アリス、気がついた? ぼくが誰か分かる?」
「……鈴也……でしょ?」
聞き慣れた声。
顔を見なくても分かる。
だが、彼の切羽詰まったような焦った声は初めて聞いた。
ゆっくり身体を起こそうとすると、その身体を鈴也に抱きしめられる。