第6章 屋上の帽子屋(帽子屋ルート)
「ある……けど……?」
何も分からないままそう答えると、彼はすぐに二つ目の質問を口にした。
「では、もし……その大切なものが損なわれてしまったら、貴女はどう感じるのでしょう?」
損なわれる?
一瞬、意味が理解できなかった。
だが、その一瞬の後には理解が追いついてくる。
大切なものが『物』であった場合、損なわれることは『壊れる』ということ。
大切なものが『人』であった場合は、『死ぬ』ということ。
『もしも』なんて、そんな縁起でもないことを想像したくはない。
しかし、遥都先輩の様子から、その質問が単なる好奇心や興味本位でないことは分かった。
「……悲しいんじゃない?」
実際に体験したわけではからか、いくら考えてもそれ以外の答えは見つからなかった。
意味の分からない質問への、私のありきたりな答え。
遥都先輩はそれに、安堵したような、寂しいような……そんな複雑な表情をして微笑んだ。
「そうですね。大切なものが損なわれれば、『悲しい』と感じるのは普通です。そして、その答えが私と貴女を隔てる、決定的な一線」
軽く肩を押され、私は屋上の外から校舎の中へと押しやられる。
「これは貴女のためなのです。さようなら、私のアリス」
バタンッと重苦しい音を立てながら、屋上の扉は閉ざされた。
私は慌ててドアノブを捻ったが、ドアはピクリとも動かなかった。
ダンダンと叩いてみるが、手が痛くなるばかりで効果はない。
おそらく、遥都先輩が施錠したのだろう。
私は鍵を開けるために、急いで職員室へ急いだ。
* * *