第6章 屋上の帽子屋(帽子屋ルート)
私をイスに座らせると、自分も元の場所へ座った。
そして、男子生徒は一つ手を打つ。
「……っ」
突如、どこからともなく現れた黒服の男にびっくりしてしまう。
これだけは、いつまで経っても慣れない。
まるで姿の見えなかったその男は、私の初めて見る顔だった。
ティータイムには何度も誘われて一緒に紅茶を飲んでいるが、一度として黒服の男が同じだったことはない。
黒服の男は私の紅茶を注ぐと、すぐにどこかへ姿を消す。
前から思っていたが、黒服の男たちは本当に人間なのだろうか?
目の前に置かれた芳醇な香りの紅茶にその疑問は消え失せる。
出されたカップは使い捨ての紙コップだけど。
最初は「何で?」と思ったが、今となってはそんな疑問も浮かばない。
むしろ、黒服の男の方が不思議だ。
「どうぞ、召し上がって下さい」
目の前の紅茶とスウィーツに、私の空腹は限界だった。
「じゃあ、遠慮なく。いただきま――……」
私はまず紙コップの紅茶を手に取り、口へ運ぶ――……。
「的幡――――ッ!!」
突然の乱入者に、私は思わず紅茶を落としそうになった。
現れたのは、男子生徒とは真逆の、無骨な男。
げ、生徒指導の教師……っ!
逃げた方がいいと判断したが、生徒指導の教師がドアの前を陣取って、逃げるに逃げられない。
「おや、先生。こんなところへ何をしに?」
「決まっている。お前を授業に引きずり出すためだ! 観念するんだな、『帽子屋』」
的幡 遥都、高校三年生。
立ち居振る舞いの優雅な、とても高校生には見えない紳士。
噂では、さる貴族の末裔だとか何とか言われているが、あながち間違ってもいないように思える。
だが、授業中にも関わらず屋上でティータイムを楽しむのは、果たして紳士のすることだろうか?
当然学校はそのことを注意しているが聞く耳持たず、学校で過ごす時間の大半を、屋上のティータイムに費やす。
『帽子屋』と呼ばれるのも、終わらないお茶会を楽しんでいるからだ。