第5章 保健室のネズミ(眠りネズミルート)
「何だ……その、魔法少女ミラクルアリサ? とか、私立ことほぎ学園 初恋?」
「先生、違います! 間違えないで頂きたい! 『魔法少女ミラクル☆アリサ』と、『私立ことほぎ学園 *初恋*』です」
発音だけなら何の間違いもないのに、「☆」や「*」がないとメタ発言をしてきた。
いったいどう発音しろというのか。
そしてぼんやりした態度を急変させて力説してくる。
「一言で簡潔に説明するなら、『魔法少女ミラクル☆アリサ』は、超キュートでプリティなアリサが、人類を滅ぼそうとする悪の組織ジャマンダと華麗に戦うアニメです」
ジャマンダ……頭の悪そうな組織である。
「それに、『私立ことほぎ学園 *初恋*』は、共学になった元女子高に入学した、地味で平凡で何の取り柄もない主人公の男子生徒が美少女たちと出会い、恋に落ちる――というゲームです」
地味で平凡で何の取り柄もない主人公……いったいその主人公に何の魅力があるのだろうか。
「なかなか面白そうだな……じゃなくて! アニメは録画予約して、ゲームはもう少し控えなさい」
今、なかなか面白そうだとか言ったよ、この人。
「録画もしてますけど、それじゃあ翌日にならないと観れないじゃないですか!! オレはすぐに観たいんですよ!! ゲームする時間だって、二十四時間でも足りないんです!」
確かに、やりたいことをやっていれば、一日二十四時間では足りないと思うこともあるだろう。
だが、お前はやりすぎだ。
まくし立てた男子生徒は、唐突に大きな欠伸をした。
「……まぁ、そういうわけで……オレのベッド空いてますよね? オレ以外に使わせないで下さいよ……ふわぁ……」
何がどういうわけなのか。
話は終わったとばかりに、先ほどまでとは明らかに違う、どこまでも低いテンションで彼は言った。
「お前のベッドではない。まったく、この『眠りネズミ』が」
「別にいいですよ、ベッドで眠れるならネズミでも」
何度も欠伸を嚙み殺す男子生徒は、ドアから様子を見ていた私の存在にようやく気づき、顔を綻ばせる。