第4章 中庭の猫(チェシャ猫ルート)
「……あの」
例の見知らぬ下級生が話しかけてきた。
「何? 一緒に食べたいならお断りよ」
今まさに食べようとしていたところに声を掛けられ、私は素っ気なく応じた。
「い、いえ……その……」
顔を朱くする姿が、どことなくシロと重なる。
何を言いたいのか中々切り出さないので、その男子生徒に構うことなくサンドイッチを食べることにした。
しばらくして、私がサンドイッチを食べ終えた頃。
名も知らぬ男子生徒は、耳まで真っ赤にしてようやく話を切り出してくる。
「あの……っ、俺ッ、藤城先輩のことが――……」
「とぉ――――ッ!!」
突如、木の上から人が降ってきた。
そしてその人物は、男子生徒に見事な蹴りを入れると、華麗な着地を見せる。
「あなた……」
「大アタリ! やったニャン」
くるくると回って猫のようなポーズを決めた彼は、こちらにVサインをしてくる。
頭を押さえながら起き上がった男子生徒は、降って来た人物を確かめ、大きく目を見開いた。
「ちぇ、チェシャ猫……ッ」
呼ばれた彼は「ニャン」と猫の仕草を真似る。
彼は根古峰(ねこみね) 鈴也(すずや)、高校一年生。
イタズラが趣味で、教師や生徒に関わらず被害者多数。
授業を平気でサボるが成績が良いので、教師も「授業に出ろ」と強く言えない。
イタズラが好きなのと自由気ままな姿から、「チェシャ猫」と呼ばれる問題児だ。