第3章 惚れたら負け
「ねえ、さっきありがとうね」
授業終わりに彼女から再び声を掛けられる。
さっき盛大に後悔したばかりの僕だ。
次は絶対にヘマをするなよ、と心の中で自分を戒め彼女に頷く。
「..別に」
我ながら別にってなんだ。
本当にもっと気の利いたことが言えないわけ。
15年間生きていて今初めて知ったけど僕の脳みそって残念すぎるデショ。
「そう言えば隣なのに話したこと無かったね、月島..ほたるくんだっけ?」
そしてここに来て肩を落とすわけで。
入学して一週間が経つのに、彼女は僕の名前を知らなかったらしい。
結構な確率で先生方に『ほたるじゃなくてけいです』という趣旨の言葉を授業中に発しているのだが、彼女は僕を知らないらしい。
興味が無いのだから当然と言えば当然だが、まあ普通にへこむ。
「..ほたるじゃない」
「え?違うの?あ、じゃあケイくんだ!」
彼女がまた僕へと笑う。
その顔が可愛くなくもなかったから、なんだかケイでもホタルでもどっちでもいい気がしてきた。
「今更だけどよろしくねえ、蛍君」
ここは彼女へ、よろしくと返すべきなのか否か。
それでも返事をしなければ感じ悪いしさっきの二の舞だ。
意を決して返事をしようと口を開きかけた、その時。
「ひまり~、あんたさっき何してたの、超パニクってたじゃん」
「ん、お絵かき?」
「やっぱバカじゃんひまり。あの先生はさすがに真面目に聞いといた方いいって~」
なんて笑い始める。
彼女の友達モブその1,2みたいな奴ら。
彼女は彼女の友達にあっという間に囲まれてしまい、結局ろくに返事をすることなく儚くも四時間目のチャイムが鳴ってしまった。