第2章 正義の味方と書いて
「ねえ、徹」
「...なに?」
「私のこと、助けてくれてありがとう」
ようやく彼に言えた『ありがとう』。
私が殊勝にこんなことを言うのは初めてだったから、彼も驚いたみたいで、それでも笑って私の頭を撫でてくれた。
「何、お前もそんなこと言うようになったわけ?すごい進歩じゃん」
及川さん感動、なんて笑うけど、
「本当に大丈夫そうで、安心したよ」
そんな風に真っ直ぐに言われるから、私の心はまた揺らぎそうになる。
また私が弱くなったら。
立ち直れなくなったら。
この人はまた私のことを助けてくれるだろうか。
「あ、でもさひまり?」
「..ん、」
「お前そのメイクは趣味悪いから辞めたら?折角可愛い顔してるんだから、台無し」
「うるさいなあ、いいんだよこれで。徹の趣味なんか訊いてないから!」
「酷いひまりちゃん!俺これでも一応お前の元彼ね?」
元彼、と彼に言われて胸がツキンとなった。
彼と私は確かに、愛だの恋だのではなかったけど。
それでもこの恋愛もどきのような2人の関係が終わってしまったんだなあ、とセンチメンタルにぼんやりと考えた。
元々この恋には初めから終わりが見えていた。
期限付きの恋愛だったのだ。
「付き合ってやろうか」と偉そうに話かけてきたチャラチャラした高校生がまさか私の人生を救ってくれるとは思いもしなかったから。
だから安請け合いした。
「付き合ってあげてもいいよ」なんて。
ヤケになっていたから。
何もかもどうでも良かったから。
これで仮に襲われたって殴られたって怖いお兄さんに売られたって自己責任。
それならそれでもいいと思っていたし。
まさか彼が私を今居るアングラの中から引き上げてくれる存在だとは思いもしなかった。
彼に引き上げられて私は救われた。
ご飯の味がちゃんとするようになって、楽しいことがあったら思わず笑っちゃう、普通に女の子が出来ていた。