第2章 正義の味方と書いて
「..ひまり」
ん、と徹が私を抱きしめる。
抱きしめるというより顔を胸に押しつけられて頭をポンポンされただけだけど。
名残惜しいこの胸から顔を上げて、私は徹に微笑んだ。
上手く笑えているのかわからなかったけれど。
それでも笑って、精一杯のありがとう、を。
「徹、ありがとう」
そう言って徹の目を見ずに、私は歩き出した。
家に帰るために。
徹から離れるために。
「こちらこそ」
あの時徹がどういう表情をしていたのか、結局振り返って確認することは出来なかった。
それはそれでもいいと思っていたから。
思い出は今居るこの場所に置いていこう。
私たちが一緒に居た意味は、つまるところそのあたりで、そしてそれが全てであったのだから。