第3章 惚れたら負け
「え、ごめん。うん、呼ばないよ。ごめんね?ふざけ、」
「あは、違うから荻原」
何も悪くない荻原に二回も謝らせるなんて間違いなく有罪。
荻原は悪くない、正しい。
少なくとも影山よりはよっぽど正しい。
荻原に謝らせておいてふんぞり返ってるとか何様なの。殺意。
「影山は王子様じゃなくて、王様なの」
「...どういうこと?」
「だから、影山は『コート上のプリンス』じゃなくて『コート上の王様』なわけ。
中学の県予選の決勝もさあ、最悪に自己中なトス打ってたわけ。で、最後はチームメイトから見放されて、折角上げたトス誰も打ってくれなかったんだよね?
コートでは偉そうに横暴に振る舞うから『王様』なわけ。挙げ句家来たちに見捨てられちゃ世話無いよね」
「け、蛍君、そんな言い方したら_」
ようやく事の重大さがわかったらしいバカ女が顔を青くして王様と僕の顔を交互に見た。
「わかった?荻原。だから王様、なんての凄くて付いた異名でも何でもなくて、ただの悪口。蔑称。わかる?
敵を置き去りにするついでに味方も置き去りにするあんなトスばっかり打ってたらさ、流石に正セッターでも決勝ベンチに下げられるんだよねえ?」
まあ、僕でもあんなのとてもじゃないけど我慢出来ないしね、と笑えば、面白いようにオロオロする荻原が視界に移った。
王様は王様で何か反論するかと思いきや黙りだし。
「ご、ごめんね影山君。私、そんなあだ名だなんて知らなくて。本当にごめんなさい。と、とんでもない勘違いしてた。もう、絶対言わないから、本当にごめんなさい」
荻原が頭を下げ始めたから、何かこの展開おかしくないか?と首を捻る。
「別に、荻原が謝ることないデショ」
荻原は何も悪くないのに、こんな王様のために頭を下げる必要一ミリもないし。
「王様が中学時代自己中で横暴だったのが悪いんだからさあ?」