第3章 惚れたら負け
「え、違うの?うちのクラスの子がねえ、三組の影山君は『コート上のプリンス』って言われてるって言ってたよ?」
ピキン、と亀裂が入る音がしたと錯覚するくらいには、場の空気が凍った。
誇らしいあだ名でも異名でも何でもなく、元チームメイトから付けられた所謂蔑称、「コート上の王様」。
他校生には影山に実力と才能があり恐れられ付いた異名だと捉えられがちだが、実際は北川第一のチームメイトから『自己中な王様、横暴な独裁者』と言う意味を合いを込めて皮肉ったものだった。
だから本人はこの異名で呼ばれる事を酷く嫌がる。
_僕が試しに、と思って挑発に使ったときも面白いくらい激昂してくれちゃったくらいだしねえ。
なんて意地の悪いことを思いながら荻原を見れば、彼女自身は何処吹く風。
頭悪そうにヘラヘラ笑いながら機嫌がよさそうに首を傾げていた。
この場の空気を読もうだとか、気を遣おうだとかは一切思っていないようだ。
ただ単にこの重苦しい空気を感じていないだけかも知れないが。
「いや...はは、それはさ」
ちょっと違うかも、と山口が小声で影山を見る。
その目はハッキリとした怯えが写っていた。
「あ、お、おう、」
更に日向までが気遣うようにチラリと影山に目をやる。
すぐに誤魔化すように視線を逸らす。
一方の影山は、と言うと完全に表情を無くしかなり面白くなさそうな顔をしていた。
まあ面白くなさそうな顔をするのは勝手だけど、荻原を睨んでいるのだけは許せない。
誰に許可を取って睨んでんの王様。
「その呼び方、嫌いだから」
「...え?」
「だから俺のことそうやって呼ぶの、やめて」
不機嫌な顔を隠そうともせず荻原を睨み付ける。
日向も山口も何も言わないところをみると完全に王様モードの影山にビビっているのだろう。
それでもホント、さっきから誰に許可取って睨んでんのさ王様。
腹いせに苛めてやろうか。