第9章 恋敵
家康の言葉を聞いて、溜め込んでいたものが溢れ涙が出た。
そんなさくらの腕を引き、ぎゅっと抱きしめる。
絶対に離さないとでも言うようなそんな感情が伝わってきて、さくらもそれに応えるように家康の胸に顔を埋めた。
家康は本当に優しい人だと思う。
最初こそ話しかけにくい雰囲気で、嫌われてるのかなぁと思ったこともあったけど、それでも何だかんだ言いつつ優しかった。
「家康ー!」
二人の時間を楽しんでいると廊下から家康を探す椿の声が聞こえ、思わず抱きついているその手に力が入る。
それに気づいた家康は、再び抱きしめている腕に力を入れる。
思わず顔を上げると、目が合う。
家康は人差し指を口に当て「しー」っと伝えた。さくらは首を縦にコクコクと振って頷き、家康の胸に顔を戻した。
さくらのいつもより積極的な行動に少し驚いたけれど、でも悪い気はしない。寧ろ嬉しかった。それと同時にもっと触れたい、もっと彼女のことを知りたいと思ってしまう。
この穏やかな時間が無くならないように手を尽くしたい。
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「信長様、私のために歓迎の宴を開いていただきありがとうございます」
信長様の側へ行き、お礼を伝える椿。その姿は着飾っていて美しい。どこからどう見ても良いところのお姫様だった。
「…構わぬ。最近宴を開いてなかったからな、丁度良い」
信長の言葉を聞き、気を良くした椿はにっこりと笑って家康の隣へ行こうとした。
「…時に椿。俺のお気に入りには手を出すなよ」
「お気に入り、ですか?」
「そうだ」
お気に入りが何なのかは分からない。だが、お酒か何かだろうと結論付け、笑顔で「分かりました」と伝えた。
嬉しそうに家康の隣に座る椿を鋭い眼差しで信長は見る。そんな信長に「お酌します」と近寄るさくら。
「…ああ」
酌をするさくらの姿を優しい眼差しで見る信長。
最初に会った頃より健康そうな身体つきになった。好いた男も出来て、元々綺麗ではあったが更に綺麗さが増した。
再度椿の方を見ると、フッと口角が上がる。美しさで言ったらさくらの方が上だな、と考えてると隣から声が掛かる。
「信長様…?」
「何でもない。気にするな」
家康が何とかするだろうが、いざという時は手を貸す事にしよう。
この娘の為に。