第9章 恋敵
「……流石にみたらし団子に唐辛子はかけたりしない」
背後から声がして、「うひゃっ!」と思わず声を上げてしまった。
そんな様子を、声の主である家康は眉間にしわを寄せて不機嫌そうに見る。
「あんた、俺のことそんな風に見てたんだ?」
家康はさくらの両頬を掴んで横に引っ張りながら言った。
そんなに力は入っていないが、地味に痛い。そして頬を引っ張られているので、明らかに今の自分の顔は変顔になっているに違いない。
そんな顔を男三人に見られているのはすごく恥ずかしいので、そろそろやめてほしいと思う。
「にしてもお前、色気のねぇ声だったな」
「うひゃっ!」って何だよ、と可笑しそうに笑う。その顔も色気ねぇけど、と付け足して。
隣で佐助も肯定するかのように頷いているので、何気に二人とも酷い。そんな幸村たちに家康はムッとした顔で言った。
「さくらを貶していいのは俺だけなんだけど」
「は?」
「色気もなにも、さくらはそのへんの女より綺麗でしょ。あんたらの目、腐ってるんじゃない?」
「はあ?腐ってねぇよ!」
家康は頬を引っ張るのをやめ、今度は幸村と言い合いが始まる。
内容はさくらへの惚気でしかなくて、それを見ていた佐助はボソリと呟いた。
「…ご馳走様です」
その言葉を隣で聞いていたさくらは、そっと佐助の前に三色団子を差し出す。
「まだ甘味残ってるけど?」
「…そっちじゃなくて、幸と家康公に対してのセリフ」
「え?」
「家康さん、さっきからさくらの事“可愛い”とか“優しい子”とか色々褒めてる。幸はそう言うの慣れてないから、顔真っ赤にしてるし、あの二人意外と良いコンビになりそうだ」
それに対してのご馳走様、と三色団子に手を伸ばし、表情を変えずに言う。
甘味を食べながら二人の様子を見ていると、幸村が「あー」と頭を抱えて、顔を真っ赤にしながら「分かったから、もういい!」と惚気話にギブアップしていた。
「何なんだよお前ら二人は!さっきはさくらの惚気話で、今度はお前の惚気とか…マジでふざけんなよ」
みたらし団子を一気に頬張り、豪快に食べる幸村を見て思わず笑みが溢れる。
「またお話聞いてね」
「誰が聞くか!」
途中から家康もお茶会に参戦し、空が赤く染まってきた頃にお開きとなった。