第8章 縮まる距離
無意識に“好きな人には嫌われたくない”と言ってしまった私が言うのもなんだが、家康さんの突然の告白には正直驚いた。
目をパチパチと瞬かせていると、家康さんはこちらに寄ってくる。
驚いて後ずさってしまうが、それを阻止するかのようにスッと腕を掴まれた。
「…返事、聞かせて」
「……!」
「あんたの口から直接聞きたいから、だから…あんたの気持ち、俺に教えて」
じっと見つめてくるその瞳に心臓が高鳴り、顔が真っ赤に染まる。
なんて綺麗な緑色の瞳をしているのだろう。思わず吸い込まれてしまいそうだ。
恥ずかしいけれど、家康さんに返事をするため、一度大きく深呼吸をした。
「…好き、です。私も…私も家康さんが好きです」
はじめの“好き”は聞こえているか分からないぐらいの声で、次は家康さんにはっきりと聞こえるように、自分の気持ちを口にする。
その言葉を聞いた家康は、満足するかのようにさくらをギュッと抱きしめた。
「…ありがとう、嬉しい」
いつもと違って素直な家康に、さくらは再度目を瞬かせる。そして、ふふっと笑った。
「何がおかしいの?」
「だって、今日の家康さんは素直すぎて」
いつも以上にときめいてしまいます、と付け足す。
恥ずかしそうに頬を赤く染めて言う姿が可愛いくて、“可愛い”と口にしようとしたが、さくらの“素直すぎ”と言われた言葉が邪魔をして、言葉になることはなかった。
でも、素直になるだけでときめいてくれるなら、それも悪くないのかもしれない。勿論さくら限定だが。
「取り敢えず、お茶飲んで一息つこう」
家康の言葉に、そう言えばお茶を出すって言ってたなぁ、と思い出す。
家康の後に続いて廊下を歩いていると、庭に一匹の子鹿がいることに気づいた。
トクン
目が合った瞬間、心臓が一度だけゆっくりと大きく脈打つ。
思わず胸に手を当てるが、本当に一度だけで何ともない。その仕草に気づいた家康は問いかける。
「胸、辛いの?」
「いえ…、大丈夫です」
もう一度子鹿の方を見るが、特に何も起きない。
子鹿が原因ではなく、たまたま動悸がしただけなのだろうと、そう思うことにした。
「…本当に?辛いときはちゃんと言いなよ」
心配してくれている家康に大丈夫だと再度伝え、「はい」と頷いた。