第8章 縮まる距離
「好きな人に嫌われたら」って…、正直何を言っているのか理解するのに少し時間がかかった。
さくらは真田幸村のことが好きで、あいつも間違いなくさくらに好意を持っていたように感じた。
少なくともあの時の自分の瞳にはそう見えた。だが、今の彼女はどうだろうか。
「真田幸村のことが好きなんでしょ」って言う言葉に、今度は俺ではなくさくらが「え?」って言う顔をしてこちらを見ている。
…ああ、そう言えば綾が言っていたっけ。俺の勘違いから始まった、って。
「幸ちゃんは確かに好きですけど…、友人として、です」
困ったように、でもはっきりと言ったその言葉が、自分の胸にストンと入ってくる。
今までモヤモヤと胸につかえていたものが嘘のように消えていく。
さくらの言葉一つで気分が変わるなんて、いつから自分はこんなにも単純になってしまったのだろう。
さくらの方を見ると、首を傾げてこちらを見ている。その姿が可愛くて、でも見るのがちょっと恥ずかしくて顔を逸らした。
「家康、さん?」
あんたに名前を呼ばれるだけで嬉しくなる。自分の気持ちを認めるのが嫌だっただけで、前々から気づいてた。
俺は…さくらのことが好きなんだって。
「ごめん。あんたを傷つけたかったわけじゃないんだ」
ただ、悔しかっただけなんだ。
なんで俺じゃなくて真田幸村なんだって。それも自分の勘違いだったみたいだけれど。
信長様や秀吉さんに言われた“後悔はするな”って言葉が頭に響く。
きっと、今ここでいつもの天邪鬼になってしまったら、後悔するだろう。だから今だけは素直になってあげる。
「真田に贈り物を渡しているのを見たんだ。だから、あんたと真田はそう言う関係なのかと思ってた」
「そう言う関係…って、違いますよ…!」
意味を理解したさくらは慌てて首と両手を振る。
「幸ちゃんにはいつもお世話になっていたから、だからそのお礼をしただけです…!」
「お礼…?そうか、本当に俺の勘違いだ。…ごめん」
全力で幸村との関係を否定するさくらが面白くて、思わず笑ってしまった。そして自分の気持ちを正直に伝える。
「俺は…さくらことが好きみたい」
「…!」
ねえ、俺のこと…どう思ってる?
答えは分かってるけれど、あんたの声で直接聞きたい。