第8章 縮まる距離
休みの日になるとさくらは幸村と一緒に甘味処へ行くのが定着している。
それが何となく家康は気に入らなかった。
三成が「さくら様、今日も甘味処へ行ってしまいましたね」とわざわざ隣に来て寂しそうに言うものだから、「興味ない」と冷たく言い放ってその場を離れた。
向かう先はさくらがいると思われる甘味処。
興味がないなんて嘘、実は気になって仕方がない。そんなこと口が裂けても言わないけれど。
「……、何あれ」
暫く歩き続けると目当ての甘味処が見えてきた。
家康の目は良い方で、少し離れていてもそれなりに見える。そしてある光景が目に入った。
それはさくらが幸村に手ぬぐいを渡している場面だ。
思わず家康の足が止まり、その場から三人のやり取りを見ている。
離れているので声は聞こえないが、幸村が赤面しているところを見ると、それなりに良い雰囲気なのかもしれない。
「…馬鹿みたい」
家康はグッと握り拳を作り、来た道を戻っていった。
*****
昼のことなど全く知らないさくらは、その日の夜、家康の姿を見つけて声をかけた。
「…何?」
「家康さんに渡したいものがあって」
頭の中はタオルを渡すことでいっぱいになっていたさくらは、タオル持ち歩いててよかった、と言う気持ちの方が大きく、いつもの家康と違うことに気づくのが少し遅かった。
「別にいらない」
「え?」
まだ渡してもいないのに、冷たい表情で拒絶され、足を進めて行ってしまった。
「…どう、して」
家康の不快になるようなことをしてしまったのだろうか?
さくら自身には身に覚えがないため、この状況に全くついていけないでいる。
渡そうと思っていたタオルを取り出し、ギュッと抱きしめた。
その二人の様子を見ていた信長は、不機嫌そうに歩いて行く家康に声をかける。
「…何ですか」
「家康、貴様は自分の見たものしか信じぬのか?」
「それは…どう言う意味ですか」
寂しそうにその場から離れて行くさくらを見て信長は呟く。
「あれはどう見ても恋する乙女、だろう」
誰に、とは言ってやらない。それは本人が気づくべきことだから。
「早くしないと取られるぞ」
俺にな、と付け足し、ニヤリと口角を上げ家康に言い放った。