第6章 不穏
周囲の声に、眠っていたさくらは目が覚めた。
とは言っても、目覚めスッキリ!なんてことあるはずもない。体が重く、とても身体を動かせる状態では無かった。
「…お梅、さん?」
さくらの声に、その場にいた梅は目を見開いた。
「…申し訳ありません、さくら様」
ああ、ここに梅がいると言うことは、彼女が間者だったのか。
城の人たちは何故か綾を警戒していたから、梅が間者だとは思わなかったなぁ、と心の中で呟いた。
「どうして…謝るの?」
貴女は敵、なんでしょ?と呟くさくらに、梅は目を見開いた。
でも…、なんでだろうね。よく分からないけれど、裏切られたと言う感情は湧いてこない。
「お梅さんは…お母さんのような存在だった」
そして今も、母親のように私を守ってくれている気がする。そうじゃなかったら、今頃きっと…私は男たちに殺されていただろう。
側で息を飲む音が聞こえた。言わずもがな、梅だ。
「私も、…この梅もさくら様を、本当の娘のように思っております」
涙を流しながら言葉を続ける梅。
その姿を見て、色々な思いと闘いながら梅はずっと守ってくれていたのだと、なんとなくそんな風に思った。
「………っ!」
言葉にならない声が聞こえたと同時に、梅が膝をつき、左腹部を押さえている。
「…お梅、さん?」
どうしたの、と聞こうとした時、ふと視界に入る赤い水溜り。
その後ろには、刀を持っている男。
刀の先からは赤い血がポタポタと落ちている。誰の血かなんて、考えなくてもわかる。
「随分と親しい間柄になったんだな。…お前は裏切り者だった、と報告すればいいな?梅」
シャキ、と男は梅にとどめを刺そうと刀を構える。
「……っ」
「…、お梅さん!」
このままじゃ梅が殺される、と焦った時、ドカン!っと扉が勢いよく開いた。
その音に吃驚して、中にいた三人は扉の方を見る。するとそこには、怖い表情をした幸村がいた。
ああ…迷惑しかかけてない気がするけど、助けに、来てくれた。でもどうせなら……、
「家康さんが、良かったなぁ…」