第6章 不穏
「居場所は分かるか?」
「申し訳ありません、居場所までは……」
「光秀、城下の門を封鎖しろ。あと城下を出た奴がいないか調べろ。秀吉は三成と共に城下内を隈なく探せ」
信長の命に素早く動く光秀と秀吉。指示が来なかった家康は不満気に信長を見る。
「フッ、そう睨むな。貴様は城で待機だ」
「…何でですか」
「さくらが怪我して戻って来るやもしれぬ。その時は貴様が一番適任だ」
信長の言葉に家康は「確かに…」と納得する。
自分の名が出なかった事で不満になったが、信長は短時間で的確に判断して指示を出す。分かっていたはずなのに、感情的になってしまい反省した。
「もしもの時の為に、いつでも対応できるよう準備しときます」
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ところ変わって町外れの森林に、息をひそめて状況を把握している男がひとり。
「(見張りが一人、中に二人…か)」
腕を組み、さてどーしたもんかと考えた。
何故このような状況になったのかは少し前に遡る。
いつものように商いをしてたら、顔見知りの女…某甘味仲間のさくらが怪しい男に担がれて連れ去られていく所をバッチリと見てしまったのだ。
面倒ごとは嫌いだが、放っては置けない性格な上に、知り合いということもあった為、店を閉めて男の後をつけた。
そして現在に至る。
もう一度中の様子を探ろうとすると、中から声が聞こえてきた。
「織田家ゆかりの姫ってだけあって綺麗だな」
「…絶対に約束は守って下さいね」
ギュッと握り拳を作って言葉を吐き出す女性に向かって、一緒にいた男は、スッと目を細める。
「約束?さて、なんのことだ?」
「……っ!さくら様には手を出さないという約束です!!」
「お前…女中として働くうちに、この女に情が移ったか?」
「そ、そんなことあるわけ…」
「まあどっちでもいいさ。狙うは信長の首ただ一つ。…だが、この女を俺のものにするって言うのもアリだな」
「……っ!!」
会話からして中にいるのは男と女か、と幸村は確信した。
そして恐らくだが、女の方は武術経験者ではないと思われる。ならば、先にそこにいる見張りを眠らせて突入しようと考えた。それよりも…、
「(あいつが織田家ゆかりの姫だなんて聞いてねぇぞ!)」