第6章 不穏
外にいた見張りを早々に片付けて中へと入ると、あまり良い状況ではなかった。
思わず「チッ」っと舌打ちする。優先すべきはさくらであるが、血を流して倒れている女も早急に何とかしなければならない。
まずは…と男の方に目を向けると、男は刀を構えて幸村の方めがけてやってきた。
大した腕前でもないため、呆気なく叩きのめされ、床に伏せる。近くにあった縄で男を縛り、捕獲成功だ。後は安土城の奴らに任せればいいだろう。
「大丈夫か?」
「うん…ありがとう、幸ちゃん。でも、私よりお梅さんが…」
「……とりあえずお前優先だ。そこの女は訳ありみたいだし、この辺徘徊してた石田三成にでも伝える」
そう言って幸村はさくらを抱える。所謂お姫様抱っこだ。
「にしても、せっかく来てやったのに“家康さんが良かった”はねぇだろ」
「…!き、聞いてたの?」
顔を赤く染めて言うさくらに軽く呆れる。先ほどとは別の意味で不穏な空気になりそうだ。
「お前の色恋話なんかには興味ねぇけど、ま、精々ガンバレ」
「が、頑張るも何も…、私、家康さんにそう言った感情は……」
「ふーん、別にいいけど。ま、なんかあれば話くらいは聞いてやるよ」
だって俺ら、ズッ友だろ?と笑う姿がとても眩しくて、その笑顔は家康さんの笑顔とはまた違っていた。
「幸ちゃんの笑顔は…太陽のように眩しいね」
「は?」
「幸ちゃんの笑顔、好き、だなぁ……」
“…二番目に”とは聞こえないよう心の中で呟く。
体力の限界だったさくらは、そう呟いて意識を飛ばした。だから見逃したのだ。さくらの言葉を聞いて、顔を真っ赤にさせた幸村の顔を。
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「…何でアンタが彼女を抱えてるの」
さくらを抱えて安土城まで来た幸村は、中から急いで出てきた家康に怪訝そうな顔をされて言われた。
ここでも別の意味での不穏な空気が流れる。
「あ?俺がこいつを助けたから連れてきたんだよ」
「………」
「何で黙るんだよ」
「……その子、預かるよ」
手を出してきたので、幸村は溜息をついて家康にさくらを託した。
そして来た道を戻る。チラッと二人の方を見ると、「無事で良かった」と呟いていた家康を見て、また溜息が出た。
「ったく、両想いじゃねぇか」