第6章 不穏
毎日のようにさくらの様子を見ていた。少しでも彼女の変化を見落とさないように。それが主からの命令だった。
一緒にいるうちにさくらがどういう人物なのかを知り、大切な存在へと変わっていった。
今日の様子を見て、何となくだが嫌な予感がした。
仕事を終わらせて、急いでさくらの部屋へ向かう。自分の勘違いであってくれればいい、そう願いを込めて。
「さくら様、いらっしゃいますか?」
返事はない。
失礼します、と襖を開けると、その部屋の主人はおらず、窓だけが開いた状態だった。
「さくら、様…?………っ、さくら様……!」
ドクン、と心臓が鳴り、次第に速くなる。
あの時離れなければ、と後悔だけが残った。
兎に角報告しなければ、と信長や光秀がいるであろう広間へと急いだ。途中秀吉に出合ってしまい、「廊下は走るな!」と言われたが、今は緊急事態だ。そんなこと言ってはいられない。
秀吉を無視して先へ行くと、その後を「廊下は走るなぁぁあ!」と追いかけてきた。
「ひ、秀吉様も走ってますけど…!」
「お前が止まれば止まってやる!」
「絶対に嫌です!」
廊下で二人の声と足音が木霊する。
その声と足音は広間にいた者たちにも聞こえていた。広間にいた信長と光秀、家康は襖の方を見ると、スパーン!と勢いよく襖が開いた。
「何事だ、騒々しい」
「こんな開け方するの舞くらいだと思ってた」
「ほう、珍しい組み合わせだが、どうやらいい話ではなさそうだ」
上から信長、家康、光秀である。家康の言葉に秀吉が反応するが、光秀がそれを遮る。
「信長様、どうやら事件のようです」
「そのようだな。来たのは予想外の人物だが」
信長は目をスッと細めて、広間に入ってきた女中を見る。
「何であんたが…」
家康も驚いていた。女中とは言え、要注意人物と多少の警戒をしていたからだ。
「…改めまして、光秀様に仕える忍びの綾と申します」
「女中に成りすまして城の中を探っていたのか」
「…はい。そして申し訳ありません。恐らくですが、さくら様が連れ去られました」
綾の言葉に、その場にいた武将たちは、目つきを変えた。