第1章 はじまり
桜吹雪が少しずつ収まっていく。
そして一人の少年が現れた。癖毛のある栗色の髪に、青い瞳のどこか人間離れしたような少年。
……いきなり現れたから人間ではないのかもしれない。その少年は一歩、また一歩とこちらに近づいてきた。
「久しぶりだね」
ニッコリと笑顔で話しかけてくる少年。
久しぶりと言われても、私自身この子と会ったことは恐らくない。戸惑いを隠せずにいると、少年は「…ああ、そっか」と一人つぶやく。
「ごめんね、今のお姉さんとは“初めまして”だ」
「……えっと」
「僕たち、遠い昔に会ってるんだけど……うん、説明するよりも、それはお姉さんがこれから知っていけばいいことだから」
少年の言っている意味がよく分からない。遠い昔っていつだろう。
もし私が忘れているのなら、“思い出して”って言うはずなのに、“知っていけばいい”ってどういう事なのだろうか。
気になるけれど、私が質問する前に少年はまた話し始める。
「お姉さんの“生きたい”って言葉、ちゃんと届いたよ」
「………っ!」
「知ってる?この桜の木、樹齢500年なんだ。そして僕は桜の精霊!」
えへへ、と照れくさそうに笑う少年。
その顔は年相応で可愛いけれど、桜の精霊って…そんなの、本当にいるのだろうか。どこをどう見てもただの家出少年にしか見えない。
…なんて事を考えながら、自称桜の精霊の言葉に耳を傾ける。
「桜の木って極稀に不思議な力が宿るんだ。この木がまさにソレでね、僕に力を貸してくれる」
少年が桜の木に手を添えた瞬間、ぶわっと辺り一面が桜吹雪になる。
「(風、吹いてないのに何で…?)」
もしかして本当に、桜の精霊?と、不思議そうに少年を見ると、少年は優しい表情でこちらを見ていた。
「やっと約束を果たすときが来たんだ」
「…約束?」
「なんの事?」と問いたかったが、何故か言葉にならず、喉からヒュッと空気だけが漏れる。
「(…声が、でない)」
「ごめんね、ちょっと時間がないんだ。僕の話だけ聞いて」
申し訳なさそうに言う少年。そして真面目な表情になり、言葉を続ける。