第1章 はじまり
はらり、はらりと桜の花びらが舞う。
ゆっくりとした足取りで桜の木の下にやってきて、切なそうに眺める女性の名はさくら。
数時間前に彼女は、病院でとある宣告を受けていた。
“……君の命はもってあと一年ぐらいだろう”
さくらは数年前に肺の病気になり、入退院を繰り返していた。辛い治療にも耐えたけれど、結果、ダメだった。
握り拳を作り、ぎゅっと手に力を入れる。
「まだ、見つかってないのになぁ…」
さくらには兄が一人いる。正確には…いた、だ。
一年前に行方不明になり、捜索願いを出したが今現在も見つかっていない。
両親も早くに亡くしているため、たった一人の家族だったのに。
兄を見つけて、旅行もして、美味しいものも食べて。
…それから素敵な恋もしたい。好きな人と結婚もして…たくさんの子供も生んで……。
仲の良い家族を作って、夫婦共に長生きして生涯を終える。そんな人生が良かった。
自然と目に涙が溜まる。
「……っ、もっと、生きたい…っ!」
誰にも言えない感情を桜の木にぶつける。
そんなときだった。
強い風が吹き、桜の木から花びらが舞う。
やがて強い桜吹雪になると、その中心には人影があった。