第1章 はじまり
「今からお姉さんを違う場所に連れて行く。お姉さんはそこで生きて」
「何を、言ってるの?」
連れて行くって何処へ………?
生きても何も、私にはもう時間がない。それを望んでも、もう手遅れなのだ。
「…頑張ったけど、もうダメなの。……手遅れなの」
悔しそうに、そして寂しそうな表情で小さく呟く。
その言葉は少年の耳にもしっかりと届いた。今にも消えてしまいそうなさくらを少年はぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だよ、お姉さんを助けるために僕はここにいるんだ」
少年の言葉が頭にスッと入ってくる。
「僕も桜の木に力を借りてるだけだから…お姉さんの身体、完璧に治せるわけじゃない。病気を消し去るのに少し時間が掛かるし、身体も健康な人より少し弱くなってしまうかもしれないけど、そこは許してほしい」
申し訳なさそうに「力不足でごめんね」と謝る。
そんな少年を見てさくらは首を横に振る。
今より長生きできるならそれでいい。だから、あなたが謝る必要はない、と。
「お姉さんの探してる人とも、きっと再会できるから。楽しいこともいっぱいあるし、大切な人も必ずできるから……、だからお姉さんは絶対に生きることを諦めないで」
真剣に言うその瞳に、思わず吸い込まれそうになる。そしてフッと笑う。
「君との五百年前の約束、今果たすよ」
その言葉を残し、少年は私の身体にスッと入るように消えた。それと同時に、今まであった肺の違和感が消える。
「まだ先の話だけど、もし僕が死んだら、この桜の木の下に埋めてほしい。
……約束だよ、さくら」
今から行く場所に貴方はいるの?
なんで、そんな約束をするの…?
どうして、私の名前を…知っているの………?
頭に響くその優しい声を聞きながら、桜吹雪に包まれてさくらは意識を失った。