第6章 不穏
家康に何か気づいたら教えてと言われて一週間。
身の回りの変化は特にはない。しっとりと汗はかくが、体調が悪いわけではなく、さくら自身特に気にしていなかった。
おまけに最近は、初夏にしては暑い日が続いていたので気づかなかったのだ。しっとりとかいていた汗が、ただの汗ではなく冷汗だったということに。
「さくら様、大丈夫ですか?凄く汗をかいていらっしゃるようですが…」
心配そうに綾が聞くと、舞も「ホントだ」と心配そうにさくらを見る。
「体調悪い?」
「ううん、体調が悪いわけではないの。最近暑いからかなぁ…?」
「何かあればすぐにおっしゃって下さいね」
心配そうに言ってくる綾を見て思わず笑ってしまった。
「…さくらちゃん?」
「ごめんね、この前の家康さんと今の綾ちゃん似てるなぁって」
「家康と綾ちゃんが?」
天邪鬼で無愛想な家康と、明るくて優しい綾。似ても似つかないけどなぁ、と舞は饅頭を食べながら思った。
「二人とも、心配症でとても優しいの。それに同じこと言われた。綾ちゃん、心配してくれてありがとう」
にっこりと笑ったその笑顔が綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「(家康様はさくら様のこの笑顔を守りたいんですね。そして出来れば独り占めしたいんでしょうね)」
綾はクスクスと笑いながらそんなことを考えていた。
その後も家康や秀吉の話に花を咲かせ、楽しいひと時を過ごした。
そして綾は仕事があるからと女子会をお開きにし、二人は各自の部屋へと戻っていった。
部屋へ戻ると、梅が「楽しかったですか?」と、温かいお茶を持って部屋へやって来る。
「この後別件の仕事を任されているので、湯呑みは机の上に置いておいて下さいね」
「分かりました」
では失礼します、と部屋を去る梅。さくらはお茶を飲みながら窓から外を眺めていると、視界がぐらりと揺れた。
「……っ!」
体勢を整えることも出来ず、そのまま一気に暗転しさくらの意識は沈んでいった。
「……申し訳ありません、さくら様」