第6章 不穏
「さくら様、最近綾と仲がよろしいみたいですね」
梅が心配そうに声をかけてきた。
差し出されたお茶を一口飲んで「うん」と頷く。
はじめこそ警戒したものの、三人で毎日女子会をするようになり、今ではすっかり仲良しになったのだ。
「…お気をつけ下さいね。こそこそと何かを嗅ぎ回っているようです」
「嗅ぎ回ってる…?」
「目的は分かりませんが、さくら様や舞様に近づいていますし…、お二人とも織田家ゆかりの姫というお立場ですから」
狙われてもおかしくないんですよ、と梅は苦笑する。
「分かりました。気をつけますね」
頷いたものの、さくらはもう綾に対しての不信感はあまり持っていなかったので、気をつけるにしてもどのように接すればいいのか分からない。
いきなり余所余所しくなると、それはそれで相手に不信感を抱かれてしまうし、舞が狙われてしまう可能性だってある。
「…私は、綾ちゃんのこと…好きなんだけどなぁ」
友人として。だから彼女を信じたい。お梅が部屋を去ったあと、ポツリと呟いた。
「何一人でぶつぶつ言ってるの?」
「……!」
後ろから声がして振り向くと、そこには柱に背を預けて腕を組んでる家康が居た。
「家康さん、いつからそこに?」
びっくりしたー、と呟きながら家康に問いかける。家康は大きく溜息をつき、「綾と仲良いねってとこあたりから」と返答する。
「それってつまり……最初からいたんですね」
「まあ、そうなるね」
しれっと答える家康に何か用でもあるのか聞くと、さくらの様子を見にきただけらしい。
「…何か気づいたことがあったら、隠さずにいいなよ」
「えっと…?」
「あんた、顔色あまり良くない」
「体調は最近割と良い方ですよ?」
家康はスッと手を伸ばしてさくらの額に手を当てた。
「確かに熱はないみたいだね」
汗はかいてるみたいだけど、と心の中で呟く。
「体調だけど、何かあれば必ず言って。それ以外にも、疑問に思ったことがあったら言って」
約束だから、と耳元で伝えて家康は部屋を去っていった。