第6章 不穏
最近よく話しかけてくる女中がおり、名を綾と言う。
年齢は恐らくさくらや舞ぐらいだと思われる。一人で部屋にいる時や掃除の手伝いをしている時など様々な時に時間を見つけては話しかけてくる。
今も舞と一緒にお茶していたら、綾の方から声をかけてきた。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「うん、さくらちゃんとは同じ国の出身だし、歳も近いからね」
「そうですね。舞ちゃんには仲良くしてもらってます」
舞とお茶をする機会が増えて仲良くなった今、呼び方を“さん”から“ちゃん”付けに変更した。本人が“さん”付けは余所余所しくて嫌みたいで。
「羨ましい…。私、安土には来て間がなく、仲の良い友人もいないので出来れば仲良くしていただきたいです」
「うん、歳も近いんだし仲良くしよう。ね、さくらちゃん!」
「え?あ、うん。宜しくね、お綾さん」
仲良くするのは構わないが、仕事はいいのだろうか。よく話しかけて来るたびにそう思っていた。
別に話しかけられるのが嫌とかそう言う意味ではない。ただ、今は仕事中なのでは?と思うほど、決まってさくらがフリーになった時間帯目掛けて話しかけて来る。
梅から聞いた話だと綾はまだ新人だ。大切な仕事はまだ任されないだろうが、仕事を覚えたり慣れてもらうため、頻繁に空き時間が出来るとは思えない。
「ところでお綾さん。仕事の方は?」
「今は私が出来る仕事がないんです」
困ったように言う綾を見て舞は「じゃあ三人でお茶しよう」と提案し、女子会第二弾が始まった。
梅が春はすることが増えて特に忙しいと言っていたんだけどなぁ、と疑問に思いながらも、出来る仕事がないんじゃ仕方ないかと心の中で呟き、お饅頭を食べた。
「あ、このお饅頭美味しい…!桜餡だ」
「お口に合ったようで良かったです」
「ホントだ!これどこで買ったの?」
秀吉さんにもあげたい!と舞は笑顔で食べる。
「それは私が作りました」
「え、そうなの?!」
「はい。実家が甘味屋でしたので、甘いものを作るの得意なんです。まだありますから、是非秀吉様にもあげて下さい」
今持ってきますね、と綾は厨房へお饅頭を取りに行く。この日から、決まった時間帯に三人でお茶をする姿が見られるようになった。