第3章 頑張る君
「俺のことも“家康”でいい。様はいらない」
「家康、さん?」
「…別に“さん”もいらないけど。あと、敬語もいらない」
何を言っているんだろうか、俺は。この子と関わるのは面倒なはずなのに、関わる必要なんてないのに…何故か気になってしまう。
ホント、調子狂う。
「男性を呼び捨てにはできませんので、“家康さん”で許してくださいね。でも、ありがとうございます」
ニッコリ笑うその姿が綺麗で、自分の頬が熱を帯びる。“様”じゃなければそれでいい。俺はプイっと横を向いて、「あっそ」とだけ答えた。
「…ところでさ、他の人は?」
「え?他の人、とは?」
「他の人たちは、なんて呼んでるの?」
少し気になった。
三成に先を越されたから悔しいって気持ちもあるけど。さくらの言葉を待っていると、「皆さん“さん”付けで呼ばせてもらっています」と返事が返ってきた。
「“皆さん”?」
「はい。流石に信長様は違いますけど、政宗さんに秀吉さん、光秀さんです」
まさかの光秀さんまで呼び方が変わっていた。何だかんだあの人も隅におけない。
「皆さん仕事の合間に顔を出してくれて、忙しいと思うんですけど、それでも暇だった私には嬉しくて」
「…ふーん」
この一週間、信長様の命令で誰よりも近くにいたと思っていたが、誰よりも遠かったのかもしれない。
元々関わろうとしていなかったのだから仕方ないのだが、それでもやっぱり悔しくて、自分のこの天邪鬼な性格に嫌気が差す。
「こうやって家康さんとお話できるのも嬉しいです。時間を作ってくれてありがとうございます」
「別にあんたと関わりたい訳じゃない。…でも、仕方ないから、時間があるときなら暇つぶしに付き合ってあげる」
今の俺がさくらにかけてあげれる精一杯の言葉。
でも、俺の言葉にあんたは嬉しそうに頬を染めて笑ってくれるから、それが嬉しかった。