第3章 頑張る君
「さくら様…!料理は私共が運びます!」
「姫様に掃除を手伝って頂くわけには…!」
「姫様、危のうございます!!」
さくらが織田家ゆかりの姫として過ごすようになって一週間。城の至る所から女中の悲鳴が聴こえる。
最初は何をやらかしたの、と思っていたが、どうやら掃除や料理を運ぶ手伝い、他にも色々と女中のしている事を手伝おうとしているらしい。
一週間、諦めもせずに毎日毎日同じことの繰り返し。女中と目が合うと、助けてくれと目で訴えられる。
面倒だけど仕方がないな、と小さく溜め息を付いて話しかけた。
「毎日毎日何やってるの」
「あ、家康様?」
見ての通り皆さんの手伝いを…、と困ったように笑いながら答える。
「でも嫌がられるんですよね…」
「その割には図々しく手伝いをしようとしてるみたいだけど」
「…だってすることないんです。何かしてないと落ち着きません」
「書物を読むとか、香を嗜むとか生花とかあるでしょ」
呆れたように言うと、さくらはうつむいてしまう。
そしてボソッと何かを言っているが、上手く聞き取ることができなかったので聞き返すと、顔を赤くして、さっきより大きな声で言葉を発した。
「……っ、この時代の字が難しすぎて読めないんです…!香だって全く分からないし。生花も、…したことないです」
確かに舞も字が読めなくて三成に教えてもらっていた気がする。五百年後の未来と、この時代とでは違いが大きすぎるのだろう。
「字だったら、三成に教えてもらえばいい」
「三成くんに?」
……ちょっと待って。
この子は今なんて言った?自分の耳には“三成くん”と聞こえた。気のせいじゃないよね。
「…いつから三成のこと“三成くん”って呼んでるの?」
「え?」
きょとんとした顔で家康をみつめるさくら。
「出会ってすぐです。“三成”と呼んでくれればいいって言われて…」
「ふーん」
「それがどうかしましたか?」
首を傾げて聞いてくる姿に一瞬ドキッとしたのは勘違いだと思い込む。