【刀剣乱舞】百振一首 ─刀剣たちの恋の歌ー(短編集)
第9章 ー君がためー 江雪左文字
「宗三さん、小夜さん。若菜摘みに行きませんか」
「いいですが、どうしてこの寒いときに。雪でも降りそうな天気ですよ」
「……七草粥でも、作るの?」
ええそうです、と応じて庭に出る。
喉元まで出かかった「毎晩せがまれますよ、主は七草粥がお好きですから」という言葉を押し戻しながら。
主の好物など、私だけが知っていればよいのです。
……まして、毎晩密かにお会いしていることなど。
皆に知られれば争いは避けられないでしょうから。
一人先に立って、主のことを思いながら若菜を摘む。
熱で火照らせた顔に満面の笑みを浮かべて、「ありがとう、江雪さん」と。
想像するだけで暖かい気持ちに浸ることができた。
いつしか頭の中は主のことでいっぱいで、周囲のことなど忘れていた。
連れてきた二人からもずいぶんと離れてしまっている。
駆け寄ってきた小夜にあとどれくらい、と尋ねられた。
「もう少し、よろしいですか」
「良いけど、雪が降ってきたよ。風邪をひいたら主が悲しむ」
そう言われて初めて気づく。
静かな本丸の庭に、しんしんと雪が降っていた。
「そうですね。戻りましょう」