【刀剣乱舞】百振一首 ─刀剣たちの恋の歌ー(短編集)
第8章 ー難波がたー 加州清光
ねえ、ほんの少しの時間でいいからさ。
俺にちょうだい?
ほんとにちょっとだけ。
……マニキュア塗ってほしいなー、なんて。
一緒に出かけたいとか、ずっと近侍で居たかったとか、そんな贅沢は言わないからさ。
……いや、欲を言えば前みたいに抱きしめさせてほしいけど。
そりゃ誰だって俺なんかより優秀で扱いやすいへし切りの方を可愛がるよね。
数日前に顕現したへし切り長谷部に近侍の座を奪われて以来、もとから大所帯のこの本丸で、俺が主を独り占めにできる時間はまったく無くなってしまった。
近侍であってもなかなか長時間二人きりで居られることなど無かったのだから。
それくらい主は常にひっぱりだこで、他のやつらからも慕われている。
……それは良い事だよ、もちろんうれしい。
他の奴等と楽しそうに喋る主の横顔だって、好きだよ。
でもさ。
やっぱ、何か嫌だ。
主の愛を俺だけのものにしたいって思う。好きなんだから。
自分の独占欲がこんなに強かったとは知らなかった。
俺だけのもの以前に、そもそもへし切りが睨みを効かせているせいで、俺は主と喋ることすらできないけど。
ねえ、ほんのちょっとでいいからさあ……。
もう、本当にほんのちょっとだけでいいよ。
主と触れ合いたい、お喋りしたい、見つめ合いたい。
それすら叶わないまま、このさき生きていけっていうの?
俺はこんなに主が好きだってのに……。
難波がた 短き芦の ふしの間も
会はでこの世を すぐしてよとや