【刀剣乱舞】百振一首 ─刀剣たちの恋の歌ー(短編集)
第9章 ー君がためー 江雪左文字
二人にはお礼をして先に部屋に戻ってもらう。
私は厨房に誰もいないことを確認して七草粥を作った。
毎年頼まれるものだから、主の好みの味付けなどはとうに覚えている。
「……主、起きていらっしゃいますか?」
「この声、江雪さん。入っていいですよ」
そっと寝室の戸を開けて入ると、上半身だけ起こして布団の上に座っていた。
まだ熱があるのだろう。心ここにあらず、という目をしていた。
「七草粥をお持ちしました。……一人で食べられますか?」
その言葉にパッと目を輝かせ、先ほどの辛そうな表情など嘘のように幸せそうに笑う。
……ああ、私はあなたのその素直なお心が愛おしくてたまらないのです。
「早くよくなりなさい。私は心配で……」
言葉を遮るように、主が私の服の袖口をつかんだ。
「服が、濡れている。……手も冷たい。どうしたの?」
なんだ、そのようなこと。
主は、心配してくださるのですね……。
背後から包み込むように抱きしめ、そのまま置いてあったかゆをさじで掬って主の口元に運んだ。
「……あなたのためです、これくらいどうってことはありませんよ」
君がため 春の野にいでて 若菜つむ
わが衣手に 雪は降りつつ