【刀剣乱舞】百振一首 ─刀剣たちの恋の歌ー(短編集)
第3章 ー立ち別れー へし切長谷部
「へし切長谷部を部隊長とし、以下、蛍丸、巴形薙刀、厚藤四郎、同田貫正国、遠征を頼む。出発は明朝とする」
主はそう言い再び自室に戻った。
全く素直でない主だ。
表向きには寂しさなど微塵も見せていないが、俺は彼女が俺が遠征の間相当寂しい思いをしているのを知っていた。
それは帰ってきた日の夜の主の様子からすぐに分かることだった。
他の誰も知らない、俺だけの特権だ。
俺はとっくに刀としての、九十九神としての一線を越えていた。
失礼します、と障子を叩き主の部屋に入る。
「本当は寂しいのでしょう。主?」
困ったように微笑み、ゆっくりとこちらに歩み寄った。
「ええ。でもこれくらい耐えられるわ」
そう言いながら俺を優しく抱きしめる。俺も腕を絡ませて抱きしめた。
「主命とあらば、いつでも帰って参りますよ」
本当に?と悪戯っぽく聞き返す。
俺が主に嘘なんてつきますか?と逆に聞き返してやると、屈託ない笑顔でいいえ、と首を横に振った。
立ち別れ 因幡の山の 峰に生ふる
まつとし聞かば 今帰へり来む