【刀剣乱舞】百振一首 ─刀剣たちの恋の歌ー(短編集)
第10章 ーあらざらむー 大倶利伽羅
俺一人で充分だ。
俺一人なら、こうはならなかっただろう。
他の敵に気をとられ、山姥切国広は背後に迫る時間遡行軍の太刀に気づいていなかった。
主は常に山姥切の奴を重用し、大切にしていた。
主の、大切な……。
危ない、と叫ぶより先に体が動いていた。
敵の容赦ない一撃を、まともに首筋に受ける。
ああ、俺は自分は強いと、少なくとも死に場所を選べるくらいには強いと、信じていた。
痛みと多量の出血で意識は朦朧とし、視界はチカチカと異様な輝きを放つ。
それに酔いそうになりながら、途切れそうになる意識を必死で保った。
脳裏に鮮明に映し出される主の笑顔。
愛おしい人の声がこだまする。
一度だってそれらが俺に向けられたことはあったか。
……あった。何度でも、数えきれないほど。
しかし俺はそれでも山姥切と自分比べ、ひとりよがりで嫉妬して、物思いに沈んだ。
俺が折れるより、山姥切りが折れる方が主は悲しむだろう、と。
勝手にそう決めつけて。
俺は主の笑顔を、主の大切な仲間を守りたかった。
……守ったつもりでいた。