第3章 存在価値(山姥切国広)
俺は愛される価値なんてない。別に俺は忌み子ではないし、親だって私立に入れてくれるのだから気にかけてくれているのは知っている。だが俺自身がそれに納得していない。何でそう思うようになったのか、いつからこんな卑屈な人間になったのか、覚えていない。
毎日俺は学校に行く。そこに出席はしているが、実感がない。家に帰って何度思い出してみても、記憶は他人行儀に「どちら様ですか」と言ってくる。
俺の記憶には色も、音もなく、時間系列すらぐちゃぐちゃだった。学校にいるときでさえも何か上滑りしているような、曰く言い難い感覚に陥った。
「山姥切君、大包平君、#NAME2#さん、宿題だった練習問題十五から十七番の答えを黒板に書きなさい」
今日は日の巡りが悪く、授業中に当てられてしまった。普通の人はそう思うだろう。少なくともあまり良い心持ちはしないはずだ。だが俺は。宿題なんて出来ていないにも関わらず指名される事に新鮮さを感じていた。これで今日と言う日はいつもよりもしっかりと記憶に残るはずだ。
膝丸先生の数Aの授業は進みが早い。しかしわかりやすくもあるので俺は何となくその場で解ける気になっていた。
真っ白のノートと教科書を持って前にでると、先に書き始めていた#NAME2#という女子がそれに気づいた。
「やってきてないの?」
小声で心配そうに聞かれる。
心配されることに慣れていない俺はどう答えるべきか分からず、結果として無視してしまった。多少の後ろめたさを感じつつ、教科書の問題に取り組む。
後ろめたさが邪魔をしたのだろうか、いっこうに問題を解く糸口が見つからない。
「・・・・・・私の、みる?」
今度はだいぶ遠慮がちに聞いてきた。その突拍子もない申し出に、俺は再び返答に窮した。なぜこいつは俺なんかに助け船を出そうとするんだ。俺が返事をしないので諦めて再び自分の問題を解き初めてしまう。
・・・・・・どうしたものかな。
「あんたの、見ても良いか?」