第2章 興味がない(へし切長谷部)
ああ、と頷くしかなかった。あいつは苦笑してシンプルな紺の折りたたみ傘を差し出した。
「朝、あんなに雨降りそうだったのに持ってこなかったの?私ちょうど二本持ってるから。帰ろう」
「すまない」
今度は屈託なく微笑んでいた。
廊下を歩いていると再びにっかりに出くわした。今度はしっかりと目を合わせてくる。そしておもむろにこちらに近づいてきた。少し身構える。
「そんなに警戒しなくたって、何もしないよ?なあ?」
薄気味悪い笑みを浮かべてあいつに近づいた。
「そうなの?あなたも傘忘れたの?」
臆せずそう言い放つこいつの度胸に俺は感心した。それともただ単に素直なだけなのだろうか。にっかりは笑い転げている。
「これは驚いた。あなたもって事はへし切長谷部君は傘を忘れてしまったんだね!」
「だから何だ、お前こそなぜこんな所をほっつき歩いている」
部活があるのさ、と言うと、ひらひらと手を振って去っていく。またあいつに肩すかしを食わされたような気分になった。
門を出たところで足の向けた方向が逆だった。帰り道が逆であることに気づいた。
「この傘・・・・・・」
「大丈夫、明日返してくれればいいよ」
まだ何か言いたいことがあるのか、お互い立ち去ろうとしない。
は、意を決したように顔を上げた。俺は鞄を持ち直す。
「・・・・・・じゃあね、またあした」
ああ、じゃあな、と言って帰路に就いた。心持ち早足になるのを否めなかった。の貸してくれた傘を強く、握った。