第3章 存在価値(山姥切国広)
そうか、俺はそんなにわかりやすい奴だったのか。あるいはこいつの洞察力が長けているのか。燭台切り先生の諸注意が終わった後、の前回の家庭科の授業プリントをもとに各班はそれぞれ作業を始める。
「私、かき玉汁を担当したいな。作ったことあるよ」
「じゃあ僕は米を担当しようかな」
俺以外の班員四人はすぐに自分で役割を見つけてもうそれぞれの作業を始めていた。俺はどの作業なら足手まといにならないかを考えた。
米?だめだ。鳥のじぶ煮?何をどうしたらいいのか見当もつかない。ならばかき玉汁?一人で十分だ。
考えあぐねていると再びは俺に助け船を出す。
「山姥切、片栗粉を擦り切り一杯計ってこの水と混ぜながらここに入れてくれる?」
藁にもすがる思いでそれに従った。俺なんかに心配りをするとは、殊勝な奴だ。
「ありがとう、じゃあ私がかき混ぜるから、この溶き卵をゆっくり流し込んで」
俺は誰かと協力して物事をやったことなどなかったのだろうか、緊張してボウルを落としそうだった。
ちらりと横を見ると俺の視線に気づいたが微笑みかける。どうしようもない高揚感が隠し切れなくて、俺はさっと目をそらした。ああ。こんなんだから俺には人に愛される価値がないんだ。
いつも通りに卑下をしてみても、もうこの胸の高鳴りは収まりそうもない。
俺はあんたのことがいつまで苦手で、いつから好きだったんだろう。
出来たかき玉汁を皿に取り分けようとお玉に手をのばす。手と手が触れ合い、俺の受容能力の限界になった。
カッと顔が火照る。俺はきっと今、ひどく情けない顔をしているんだろう。胸がギュウと締め付けられて痛い。ああ、胸が苦しい。
こんな思い、伝えられる訳もない。辛い、伝えられないなら気づかなけりゃよかった。
お前が愛おしい、……