第2章 興味がない(へし切長谷部)
俺は女子というものに皆目興味がないらしい。同級生のにっかり青江にそう指摘されたことによって気づいた。
話は数分前、昼休みがもうすぐ終わる、と言う頃にさかのぼる。
「なあ、へし切長谷部君?」
にっかりの奴はいくら言っても人のことをフルネームで呼ぶ。俺は自分のへし切と言う名字があまり好きではない。
「その呼び方はやめろと言ったはずだ」
さらにこいつには人をおちょくる癖があるようで、俺が嫌そうにしているのを見て微笑んでいた。食えない奴だ。前々からそう思ってはいたが。
「君って本当、女の子に興味がないんだねえ。なぜだい?自信がないのかな。・・・・・・心のことだよ?」
俺に構うな、と言いたくなるような馬鹿げた問いにため息をつく。全体なぜこんな問いを唐突にされなくてはいけないのだろうか。にっかりの奴に脈絡なんてモンはありはしない。
「おっかないなあ。・・・・・・まあ、忠告だけはしてやろう。へし切長谷部君、君は自分の感情に疎い。それだけは肝に銘じておくんだよ?」
だから何だ。ひらひらと手を振ってにっかりは立ち去った。釈然としない。正直に言えばあいつがなぜそんなことを言ったのかすら理解が出来ない。なぜ今そんなことを言ったのかも見当がつかない。人を混乱させるだけさせておいて立ち去るなど、本当に腹立たしい奴だ。
「長谷部さん、ちょっとそこを通っても良いかな。次の授業教室移動だから遅れないようにね」
奴が立ち去った方を睨みつけていると、突然背後から声がかかった。我に返ると、俺は通路を塞いでいる。仕方ないので退いて、自分も次の授業の準備をした。
しかし、準備をしようにも次の授業がなんだったかを覚えていない。
「次の授業は物理室で実験だよ」
そのお人好しなクラスメイトの一言で次の授業は理科だと知った。5組である俺たちは物理選択だ。ルーズリーフと授業プリント、筆記用具を持って廊下にでる。
お人好しなその女はまだ廊下にいた。