第1章 勉強なんて大嫌い(同田貫)
少し言い過ぎたか、と思って顔を見るとまだ平そうに涼しい顔をしている。まるで俺の事なんて分かり切っているとでも言うように落ち着いて居るものだから悔しくて仕方がない。
「ほら、とにかく全部分からないと言うのは君の悪い癖だよ、同田貫君」
ますます悔しかった。実のところどこが分からないかなんてコイツが勝手に分析してくれるので、わざわざ面倒な事はしたくないと思っていたのだがそんなことはお見通しらしい。
俺が沈黙して何も答えられずにいると、しれっと物理の問題を解きだしていた。ああ、コイツに俺なんか到底適うはずがねえ。
「・・・・・・何よ。そんなに見られると困るんだけど」
いつの間にかこいつがすらすらと問題を解く姿に見入っていた。
やっぱり勉強の何が楽しいんだか理解ができない。それでも俺にできないことを楽しそうにあっさりとやってのけるお前を見ると、自分もその世界を知りたいと思ってしまう。
こいつ限定か?・・・・・・ああ、こいつ限定だ。お前じゃなけりゃいくら楽しそうにやっていようが教えてもらう気にはならない。
俺も落ちぶれたもんだ・・・・・・。これほどあいつの困った顔に胸が締め付けられるとは。
「俺が分かんねえのは二次関数の最大最小がどうとかっていう奴だ」
仕方なくそういうと、ふふ、と柔らかい笑顔を俺に向けた。いったい何が可笑しかったというのか。釈然としない。
「ちゃんと分析出来てるのに、言わないなんて。君って本当に素直じゃないよね」
その一言で、俺は本当に全て見透かされていることを確信した。
殊勝なことだ。こんな奴の何が良いんだか自分でもさっぱり分からない。
「ああ、悪かったな。素直じゃねえついでに言ってやるよ」
放課後の俺とあいつ以外誰もいない教室に、甘ったるい空気が流れる。もう逃げ出しちまいたい。
あいつの顎をそっと持ち上げ、ほとんど表情が変わることのない顔がほんのり赤く染まるところを見てやった。
「お前が好きだ」