第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉
「お待たせしました〜」と優しげなウエイトレスさんが、私たちが注文したものを持って来た。それを「ありがとうございます」と受け取る。
「うん。初めて会ったときから、なんにも変わってないや」
本当に、ビックリするくらい何も変わってない。
コーヒーに砂糖とミルクを半分ずつ入れる。じんわりと広がっていく白は、見ていて落ち着く。
「優しいところも、きれいなところも、かっこいいところも」
コーヒースプーンでかき混ぜる。ここのは、どんな味がするんだろうか。少し口に入れると、ほのかな苦味と酸味が口に広がった。
「高校生だったときから、ずっと、私が大好きな三好のまんまだよ」
…言ってから気づいた。今、私、すごく恥ずかしいこと言ったよね?あ、ダメだ。気付いたら耐えられなくなってきた。無意識だったとはいえ、恥ずかしすぎる。
それにしても、思わず零したけど、異性に対して“大好き”はないよね。
ちらりと控えめに顔を上げると、めちゃくちゃ目を見開いてこっちを見てる3人。三好なんか、顔が真っ赤で、口をパクパクさせてる。
「ご、ごめんなさい忘れて!!」
急いで私の分のコーヒーの代金を財布から出してテーブルに置き、荷物を掴んで外に出る。
外に出ると、雨はもう小雨で、全然走って帰れる程度にまで止んでる。
絶対私の顔、赤いわ。触らなくてもわかる。あつい。
コーヒー飲まずじまいだったな。また行けばいいや。で、えっと、このまま走って駅まで行って、それから、それから…
ダメだ、上手く頭が回らない。
あのときの三好の顔が離れなくて、ドキドキしちゃって、うわあああってなってる。語彙力すら欠如し始めてる。幸いなことに人は居なくて、私の痴態を見られる心配はなさそうだ。
どうしよう、どうしようと悩んでいると、不意に肩を引かれた。
「待って!」
気づいたときにはもう抱き込まれてた。
私の顔が、華奢な、と言っても男らしい固めの胸元に、クリーンヒットした。腰にはきゅっと腕が回ってる。後頭部も押さえられてて。ふわりと香るフレグランスに安心して、眠くなる。さっきまでフル回転させてた思考回路は、いつの間にか落ち着いてる。
この安心感に縋っていたくて、そっとに背中に腕を回してみた。
「ずる…」と微かに聞こえた声は少し震えてる。今、彼は何を考えてるんだろう。私のことだったらいいな。