第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉
パシャッと軽快な音が鳴った。スマホのカメラ音だ。すると「インステにアップしちゃお〜♪」と彼自身の言葉を借りると“テンアゲ”な感じで言った。
「勝手に写真撮るなアップするな!」
万里くんと私の仲がいいことは否定せず、写真のことだけを咎める。せっかくそう見えてるなら、否定したくない。異性だけど友達になってほしいと思った、第2号さん第3号さんだから。
「そういや、どういう経緯で仲良くなって、奏は美大勧めたんだ?」
思い出したように言う万里くん。さっきは話が逸れたから、気になったんだろうか。
別に隠すことでもないし、話してもいいかな。
「仲良くなったのはね、高校時代の、今日みたいな雨の日だったよ」
あの日から、私たちはどんどん仲良くなった。連絡先だって交換したし、たまにだけど、三好が絵を描いてるところを見に行ったりもした。だから、絵が上手いことは元々知ってたんだけど、美大を勧めた一番のキッカケって、教科書を貸したことだったんだよね。
忘れたから貸してって言われて、貸したんだ。それが返ってきて、見たら、付箋が貼ってあってさ。そこには“ありがとう”に添えられた、小さな絵があったの。
綺麗だった、本当に。
繊細で、本人にとっては、落描きに過ぎなかったんだろうけど。
「綺麗だと思ったんだよね。思わず見入っちゃったし」
「マジで〜?めちゃうれピコ!」
「はいはい」
本人を前にして言ったらなんだか照れてきたから、目を逸らして俯いた。話さなきゃよかったかな。ちょうど、視界の片隅にメニューが見えた。「あっ、ほ、ほら!オーダーしよ。はい、メニュー」
「オレは何にしちゃおっかな〜」
メニューを見ながら悩む三好に、「オススメはこれ」と自分のオススメを指す万里くん。何度か来たことがあるのか。
「じゃあそれにしよっと」
「オレもオレも〜!」
万里くんのオススメには、はずれがない。それをわかっているのか、迷うことなくそれにした三好。たぶん、せっかくオススメを教えてくれたから頼まなきゃっていう気遣いもあるんだと思う。
「相変わらずだね」
「へ、オレ?」
上ずった声で、目を瞬かせて返事をした彼は、とても驚いてるようだ。まあ、そんなのは誰が見てもわかるけど。