第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉
「ほら、早く入っちゃお!」
「はいはい」
いつの間にか傘を傘立てに置いた彼に手を引かれて入ってみると、やっぱり私好みの雰囲気だった。
「わぁ……!」
「お好きな席へどうぞ」と店員さんの営業スマイル付きで言われた。
本当に私の理想ぴったりで、嬉しくて、子供みたくきょろきょろしてると、2人の男性と目が合った。顔に見覚えがありすぎる。
どちらも目を見開いてて、少し距離があるここからでも驚いてるのがわかる。「あれっ、セッツァーとツムツムじゃん!」
「えッ、知り合いなの?あ、相席いい?」
「そっちこそ!どういう繋がり〜!?」
「もち、いいっすよ。カフェ仲間?みたいな?」
「そうだね。あ、久しぶり?だよね」
実は、万里くんと紬さんとは、カフェ仲間だったりする。たまたま立ち寄った店で、隣の席に座ってて、意気投合してしまった。それから、連絡先を交換して、何度か3人でカフェ巡りしてたけど、最近は全然なくなった。お互い忙しくなるから、って。三好曰く、なんと、彼ら3人は同じ劇団の劇団員なんだとか。
「ちなみに、2人は付き合ってんの?」
「ただの友達だよ」
うん、そう。ただの友達。高校で仲良かったけど、大学入って疎遠になった男友達。
悪戯っぽく笑いながら尋ねてきた万里くんに、あっさりと答えた。
「え〜!即答しなくてもよくない?」
「だって、実際そうじゃない」と答えると、「マジか〜…」としゅんとしてしまった。
私、そんな落ち込むようなこと言った?いや言ってないよね。
「友達じゃないなら、どんな関係なの?」
「奏ちゃんは、オレに熱烈に美大勧めてくれたんだよねん♪」
紬さんの質問にパッと顔を上げた彼は、さっきとは打って変わって綺麗な笑顔を浮かべてる。
「まぁ、提案はしたね」
彼の言うように、私は三好の絵に惚れ込んで、美大を勧めた。特に、彼の描く日本画が好きだったから、その才能を伸ばしてほしくて。
「マジか…」
意外とでも言いたげな顔をする万里くんと、横で、そうなんだ、と驚いてる紬さん。
「なに、その顔。そんなに意外?」
「めっちゃ意外。あんたにそんなセンスがあったなんて」
「ハァッ!!?」
にやっと笑いながら言う万里くんは、本当に性格が悪い。今だって滲み出てるし。
「あっはは…」
「2人とも仲良すぎ〜!写真撮っちゃお☆」