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【ごちゃまぜ】恋鎖の断片【短編集】

第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉



高校生だった私は、今日みたいに天気予報のお姉さんの言葉を信じ、傘を持って行かなかった。外は晴れてて、雨なんて降りそうになかったから。
だけど、時間が経つにつれて雲行きが怪しくなり、とうとう雨が降った。
最悪だった。その日の朝の占いが1位だったことを、やけに鮮明に覚えてる。
部活もないし、学校から出れない。こうなったら、ここで雨が弱まるのを待つしかなかった。

何もせずに待ってる時間は退屈だった。
そうだ、探検をしよう。そうしよう。
思い立ったが吉日、私はすぐに行動に移した。
今まで行ったことがあった場所には行かず、縁のなかった場所に行ってみることにした。

例えば、図書室。本を読むことをあまりしない私は、授業以外でそこに行ったことがない。試しに立ち寄ってみると、勉強してる人でいっぱいだったから、何となくやめた。勉強は気分じゃない。
次は、音楽室。何もなかったけど、芸術は書道選択の私には、縁もゆかりもないから、少し新鮮だった。
もちろん、美術室もそう。そこをふらりと覗くと、男子がひとり、キャンバスに向かっていて、絵を描いてた。電気も付けずに、雲の隙間からの光だけで、真剣な眼差しでキャンバスに向かう同じクラスの彼、三好一成は、私の目にはとても綺麗に映った。

「きれい……」
絵を描くなんて、知らなかった。
思わず口から零れた本音。それがハッキリと届いたのかはわからないけど、こちらの存在に気づいたようで、ぱちっと目が合った。
「あ、ご、ごめんなさい!」

邪魔しちゃいけないと思って、すぐに立ち去ろうとした。が、「あーっ!」と聞こえた声に、立ち止まった。
「1人で寂しいからさ、オレと話さない!?」

「え、」
なんだこのギャップは。
さっきまでの真剣な眼差しはどこへやら、いつも通りの三好に戻ってた。
しかも、今、私たちは初めて言葉を交わした。普通そんな人を2人きりのおしゃべりに誘うか?答えは否だ。
「ねね、いいっしょ?」

「う、うん」

だけど、彼にとってはそんなことは関係ないらしい。興味が湧いてきて、頷いた。今日はそういう気分だ。
喋ってて思ったけど、三好には敬語を使おうという気にはならなかった。思えば、同性の女子としか話さない私が、初めて異性と仲良くなってみたいと思ったのが、このとき、この人とだった。
ほとんど話してたのは三好だったけど、この時間は楽しかった。


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